第29巻 第1号(No.113 Spring 2021)

経営フロントライン

特集

日本企業のコーポレートガバナンス
鈴木一水(神戸大学大学院経営学研究科 教授)

第31回シンポジウム

日本型コーポレートガバナンスの課題と展望

プロフェッショナルの仕事術

経営に活きた理論
上野泰生

MBA Cafeに集まろう

MBA Cafe主催 原田勉教授によるオンライン講演会のご報告
吉形圭右

編集後記

経営フロントライン

コーポレートガバナンスなき企業の歴史

 日本ではバブル崩壊後、当時四大証券の一角だった山一証券が「飛ばし」といわれる手法を用い損失を先送りして、当時の経営陣が黙認した結果、廃業につながった。日本では銀行不倒神話が存在していたが、北海道拓殖銀行も倒産してしまった。事業法人会社では、オリンパスの経営陣が主導して投資の損失を株主に隠していたケースなどは巧妙に隠ぺいが複雑化したケースである。
 企業の不祥事は何も日本企業に限ったことではない。米国ではS&L以降も経営陣の詐欺的行為により大企業の破綻が続く。2000年以降の事件で筆頭にあがるのが、粉飾決算で破綻した2000年度の売上が11兆円(米ドル=100円で換算)の大企業エンロンである。CEOとCFOは刑務所に送られた。日本では直近だと東芝の粉飾決算は記憶に新しい。東芝はコーポレートガバナンスでは日本企業の中でも先駆者的な存在であった。しかし、隠ぺいは完璧に行われ明るみに出るまで数年を要した。この件で明らかになったのは、コーポレートガバナンス体制を構築することが問題解決にはならないということだ。
 私にはインサイダー取引を扱ったアメリカ映画「ウォール ストリート」の最後のシーンが、強烈なインパクトとして、今でも脳裏に焼き付いている。証券会社でインサイダー取引をした主人公のチャーリー・シーンを、SEC(米証券取引委員会)の捜査官がニューヨーク市警の警官を伴い職場で彼を逮捕する場面である。日本では詐欺を主導した経営陣が会社を破綻に追い込んだ場合、刑事責任を問われ刑務所送りになったケースはあるのだろうか?

西村 幸宏 (神戸大学大学院経営学研究科 講師)